しおまち書房は、広島で編集ディレクション・文章作成を行う小さな制作事務所です。
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「求む、できればスキーのできる人」

その昔、『広告批評』を主宰する天野祐吉さんの本(『もっと面白い廣告』大和書房刊)で
「よい」求人広告例として、こんなコピーが掲載されていました。

「求む、できればスキーのできる人」

これ、なんの募集だと思いますか?
スポーツインストラクター?
雪国のガイド?

正解は、なんと病院の事務募集だったんですね。

それを踏まえて、もう一度このコピーを読むと、
どんな感じがしますか?

スタッフみんなが仲が良くて、
仕事で頑張った後、いっしょにスキーに出かける、そんな雰囲気がしませんか?

これを読んだのはもう15年以上前で、
ぼくは、その頃ちょうど求人広告のコピーを書く仕事をしていました。
「意欲にあふれた方」とか「やる気のある方」という
ステレオタイプなコピーに疲れている時期でした。

このコピーを読んだとき、ふと気づいたのは
「広告」というのはマッチングなんだ・・ということでした。

つまり、募集する側の本音にあった人が応募すれば
求人広告は成功なわけです。

スタッフみんなが(仕事はちゃんとするけれど)
それと同じくらいスキーが好きなら、
こういうコピーのほうが正確かもしれない。

それ以来、ぼくは広告だけでない、いろいろな制作物で
「マッチング」を意識するようになりました。
「優劣」ではなく、マッチングです。

広告のコピーというのはどれも「これが凄い」と書きすぎてると思います。
それを信じると実際はそうじゃない・・という失望やミスマッチが起こるわけです。
だったら、最初から「できるだけ本当のこと」を書けば、マッチするユーザーだけに
ヒットする・・・そういう考え方ですね。

たとえば、経営者のホンネは「俺の言うことを疑わずにすべて聞く人」が
応募してほしかったとします。
でも、正直そのままストレートには、そうおっしゃいませんよね。

その結果、実際の募集には「目標を持って働きたい方募集」とか
「成長する職場で自分を見つける」みたいな文字が踊ってしまい、
それを見た求職者が、真に受けて応募してしまうわけですね。
これ、ちょっとした悲劇じゃありませんか?

だったら「スポンジみたいに吸収したいキミを待ってる」とか
「なんにでも素直な方大歓迎!」だと、悲劇は起こりません。

つまり、コピーを書くって行為は、
「社長は(A)と思ってらっしゃる」
       ↓
「でも、実際には(B)とおっしゃる」
       or
「現場担当者が(B)でいいとおっしゃる」
       ↓
「たやすいのは(B)をそのままコピーにする」ことだが、
あえて「(A)を感じる(C)」を考える・・・ということですね。

・・・こういう雰囲気を読んで「言い換える」行為が大切なんですね。

飲食店で、キビキビ働く人が望みなら
「じっとしてるのが嫌いなあなたへ」などと書けばいいんですが
実際には「ラーメンが大好きな人募集」となってしまう。
優先順位からすると、
ラーメンが嫌いでも、キビキビ働いてくれるのであればそれでいいわけです。

だからぼくは、最近いろいろな制作物や広告の世界で
低コストのために流行している
「クライアントが自ら書く」や「提供材料をそのままデザインする」というのは
こういう意味で「限界がある」あるいは「もったいない」と思うのです。

第三者と当事者のセッションで、
見えなかった本当の意味が見えて来ることがあります。

いろんな経営者の方とお話ししていて「それって(C)ですよね?」と
ぼくが言い換えると、「おお、そうそう」という話になることは少なくありません。
でも、その「セッション」がなく、部下が社長の話を聞いて文章を書くと
(C)ではなく(B)的な、きれいで公明正大なものが並んで出てくるものです。

こんな風に、第三者とのセッションというのは、とてもパワーがあるものと思います。
そして本来、インタビューとか取材って、そういうものだったはず。

でも、半アマチュアのカメラマンが増えて、
プロカメラマンの写真の価値が理解されにくくなったのと同じく、
文章や取材の世界でも、文字さえあればオッケーみたいな雰囲気は、
ちょっと哀しいですね。

第三者と話すから、再発見がある。
そんなことを大事にしていきたいと思います。

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