旅にいざなう本「ベルリン 分断された都市」
「MUJI BOOKS」さんの「本人」というコーナーで
ぼくが「旅にいざなう本」として紹介した本を順番に取り上げています。
(この企画の主旨説明はこちらへ)
これまで26ヵ国に行きましたが、その中でも何度訪れても興味深い国がドイツです。
日本人に似たおおらかな気質と、それを補うような緻密さという国民性も好きですが
何といっても心に残るのは「東西に分割された過去を持つ」という重たい事実なんです。
たとえば、同じ工場をルーツに持つ自動車が、
東は国民車と呼ばれて「ダンボール製」などと揶揄されるシンプルなつくりのまま数十年生産された「トラバント」と、
世界じゅうで高級車として認知された「アウディ」に分かれてしまった事実。
それまで自由に往来ができた、東西ベルリンがある朝突然分断され陸の孤島になったという事実。
東西お互いの文化を見せ合うようにつくられた建物たち。
壁の下にトンネルを掘って抜け出そうとして亡くなったひとびと。
探せば探すほど、調べれば調べるほど、何とも言い難い事実が隠れていて
実際にベルリンの町を歩いて(意識をすれば)その兆候を探せることが
どうにも、やりきれず、そしてまた、統合というこれまた難儀なカルチャーショックを乗り越えて
新しい未来へと向かおうとしている姿も興味深いのです。
そんなドイツの分断の歴史をマンガにしたのが、この本です。
このマンガには、時代の異なる5つの逸話が収められています。
壁が建設された頃、それまで普通に東の家から西の学校に通っていた女子高生の話。
東から西へ、抜け出そうとして、成功した人や、亡くなったひとびと。
一種の勘違いが発端で「壁」が崩れたあの日のこと。
すべて実話をベースにしたお話で、各話の最後には解説もついています。
淡々としたタッチの絵であるがゆえに、そこに込められている
1つの国や1つの都市が分断されるということの悲しさが
ヒリヒリと肌に食い込んできます。
ぼくは2005年頃と2015年にベルリンを訪れました。
(詳しくはティータイム旅手帖 No.01に掲載しました)
前回は、東と西の街はくっきりと違いがありましたが
2015年には、もうその境目はなくなっていました。
どこの国でも、どこの街でもそうですが
繰り返してはいけないものをかたちにして
それを伝えることは、とても重要なこと。
この本を読んで、今の痕跡を探しに行きたくなるのも
それはそれで大切なことじゃないかと思うのです。
●ベルリン 分断された都市
著者:ズザンネ・ブッデンベルク/トーマス・ヘンゼラー
翻訳:エドガー・フランツ/深見 麻奈
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