しおまち書房は、広島で編集ディレクション・文章作成を行う小さな制作事務所です。
Blog

読後感:あの日からのマンガ

「あの日からのマンガ」 しりあがり寿

ぼくはあまりマンガを読まずに来てしまいましたので、しりあがり寿さんもあまり存じていませんでした。で、彼の作品を最初に意識させられたのは2011年秋、広島市現代美術館で開催された「ブリキの箱舟」という展覧会を見てからです。ブリキの現代彫刻で知られる秋山祐徳太子さんと、しりあがり寿さんのコラボレーションの展示会でした。

どこかで以前に秋山祐徳太子さんの作品を見かけていて、それを目当てに足を運びました。会場は一階から始まって地下に降りる構成で、最初は秋山祐徳太子さんの作品が中心でした。ところが地下のスペースに降りた瞬間に大きなショックを受けたのです。

壁一面に投影されている、ヘタウマな線画だけの、パラパラマンガの映像。それはその数か月前に、何度もテレビで見た「あの光景」をモチーフにしていたから。それは、東日本大震災の津波の光景です。

展示を観終わり、公式ガイドブックを手に取り読んでみると、企画中に震災が起き、それを題材に入れるべきかどうかでしりあがり寿さんは悩んだそうです。その背中を押したのが、秋山祐徳太子さん。70代を超え、戦争の記憶もある先達が、道筋を示したのだといいます。

そして、2012年の晩夏に発売されたのが、このマンガ。「あの日からのマンガ」です。題名からもわかるように「東日本大震災」をテーマにした作品だけを集めたものです。

この本には、2011年の春以降、誰もが感じた迷いやとまどい、そして不安がリアルに描かれています。痛烈な政治風刺も含まれながらも、イデオロギーが前面に出ていないことが、逆にこころにじんわりと響いてきます。

あの震災は、いろいろな教訓を日本人にもたらしたといえるでしょう。けれど、その気持ちは日々のなかで少しずつ風化するものかもしれません。そのためにも、この「本」が存在することの意味がきっとあるのだと思います。この「本」を形にしようと頑張った方々に敬意を表したいと思います。

お問い合わせ

お問合せやご相談は無料です。ご検討されたい方は、下記ボタンの「お問い合わせ」フォームよりご相談ください。別途、ご希望の連絡方法(電話・メール等)でお返事致します。

お問い合わせフォームへ