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読後感:まいにち、パン。

「まいにち、パン。」 城田 幸信

ここ数年、個人のパン屋さんが増えてきた。
雑誌の「おいしいパン」特集などをめくると
ほとんどの取材先が個人店という時代を誰が予想しただろうか。

ぼくも実際に、旅行先や近県では、評判のパン屋さんに
足を伸ばしてみる。

天然酵母は扱いが難しいという。
かつて90年代に「自家製パン」が流行った当初は
まだ、それはあくまでの個人の趣味という雰囲気で
製品にばらつきを感じたりしたものだ。

しかし、あれから20年が過ぎて、
個人店でしっかりとした天然酵母のパンをつくる店が増えた。
いわゆるハードパンというヨーロッパ風のパンも珍しくなくなった。
高くても、好きなパンを買うという時代になった。

1973年、アメリカでパンの修業をした一人の日本人。
その男が、この本の主人公。
パンの作り方から、店舗の機材まですべてをメモし、
それを「ノート」として後続に惜しげもなく伝えた。

日本で初めてデニッシュペストリーをつくった。
白くてやわらかいパンが席巻した高度成長の日本を横目に
ヨーロッパに渡り、本場のハードパンの作り方を追求した。
パンと料理の組み合わせを研究してメニューにした。

ここにあるのは、がむしゃらに「パン」と言う世界で
海外と日本をつないできた軌跡。

今では、大きな企業でなくとも海外のパンを学び
開業できる時代になり、こだわりのパン屋さんが増えた。
間違いなく、その流れはますます加速していくと思う。

そして、この流れは、単に「パン」という世界にとどまらず
いろんな分野で同じことが起きている。

「本」や「ものづくり」でも同じだ。
個人の視点が重要になっている。

しかし、その礎には、このような先達の方がいたことを
ぼくらは意識すべきだろう。
個人店もいつかは企業になるのだから。
学べることは少なくない。

パンの作り方などにもページを割いた雑誌風の編集ながら、
それゆえに回顧録だけの本よりもわかりやすくて小気味よい。

「ものづくり」の先達がなにを考えて来たか
それをひもとける本だと思う。

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