しおまち書房は、広島で編集ディレクション・文章作成を行う小さな制作事務所です。
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竹田道哉が訊く「久保浩志」インタビュー その2

「しおまち書房」代表の久保です。このサイトにおいでいただき、ありがとうございます。

「しおまち書房」設立に関して、『ひろしまスケッチブック』著者の竹田道哉さんにインタビューいただきました。
前回は、設立までの流れが中心でしたが、今回はどんな方向に進むかについてのお話しとなっています。

下記よりご覧ください。

編集・ディレクション しおまち書房 

■竹田道哉が訊く「久保浩志」インタビュー その2

●竹田:前回は、「しおまち書房」という個人事務所を開設された久保さんに、ご経歴と独立までの経緯を伺いました。
今回は、これからの計画・・・「しおまち書房は何を目指すのか」について伺ってみたいと思います。
久保さん、よろしくおねがいいたします。

まず、前回の積み残しなんですが、独立の理由をひとことで言うと「横に倒したかった」からだとおっしゃいましたね。
ひとつは、「人生のキャリアを横に倒す」ということ。

「定年まで特定の仕事に集中して、やりたいことも我慢して勤めあげてから、その後の第二の人生を余暇的に過ごす」、つまり「キャリアを縦に重ねる」という従来の考え方から、キャリアを「複眼的に横に並べて、その分70代ぐらいまで働けるようにする」という発想の転換。

そして、もう一つ「職域を横に倒す」ということもおっしゃいました。

今回は、この「職域を横に倒す」ということから伺っていきたいのですが、それはどういう意味でしょうか?

●久保:ぼくは、紙媒体の編集とホームページの両方をやって来ました。この2つは別の業界のように思われているのですが、じつは流れ的にはほとんど同じなんですよ。
こちらの図を見てください。上から下へ作業工程があるのですが、紙媒体の編集とホームページ制作を左右で見比べています。

ホームページ ディレクション 進行管理

●竹田:ぼくも印刷会社に勤めていたのですが、ホームページの作成も印刷の工程と似ていますね。
紙に印刷するかディスプレーに表示をするかの違い。

●久保:企画して、それを実際に取材や材料を揃えて、そしてデザイン・レイアウトをする。ここまではほとんど同じです。

印刷でいう印刷機を回す部分以降が、インターネットの世界では、コーディングという工程で、デザインされた部品をバラしてデータ化していったり、裏側にあるシステムを開発したり・・となります。

もちろん、モノによって規模が違ったり、この流れとは違う流れもたくさんもあるでしょうが、でもまあ、おおざっぱに分類すると、こんな形になるんですね。

これ、面白いのは、同じ職種が紙媒体では「編集者」と呼ばれるのに対し、ネットだと「Webディレクター」となるんですよね。

ぼくの今回作った名刺には「編集者」と入れてるんですが、これが「紙もネットも」両方を指すことを伝えると、皆さんびっくりされます。でも、実際には同じなんですよ。

●竹田:編集者という名称からは、紙の本しか浮かばないですね。
それでは、この図と「職域を横に倒す」ということのつながりはどうなりますか?

●久保:こういう工程の範囲で、若いころはいろいろと経験しましたが、自分として今、提供できる経験範囲というのを、改めて図に示すと、次の図のようになります。
青い線で囲った部分が、自分の専門範囲ですね。業務範囲 制作ディレクション 進行管理 出版 ホームページ

これまで、印刷会社にしろ、デザイナーの方にしろ、ネット会社にしろ、この工程を「縦に」やっているものです。
これを自分としては「横に」やりたいということなんですね。

デザインは自分ではあまり得意ではありませんが、デザインの前の「基本設計」を紙媒体(雑誌・冊子・書籍)からホームページ(企業・個人・EC)まで、長くやってきました。

もっとも得意なのは、形がまだ見えない段階の「想い」や「希望」をお聞きして、「基本設計」をする部分ですね。それと、付属してコピーも最初からつけて提供できる。

つまり、「ホームページ」にしろ、「本」にしろ、「プログラム」的なものにしろ、「基本設計」という軸で見れば一本になるわけです。

ぼくなりの「得意な分野に集中」が、この横のラインということになります。

これまで、十数年間ずっと、基本設計と文字要素をすべて「シートにしてご提案する・・」という、独特のやり方(下記写真参照)をしてきています。

DTP以降、基本設計を飛ばして、デザインをいきなり作るのが最近の傾向ですが、一見その方が早いように見えて、案外行き違いも多いものです。元の基本設計をしっかりしていれば、修正回数も減りますし、デザインもさらによくなります。また、効果を求めるWebサイトやECサイトであれば「なおさら」構造設計が重要と思います。

このように「基本設計」「進行管理」「コピーライティング」がぼくの主要な担当範囲です。

大きなプロジェクトであれば、足りないパートだけを担当させていただけますし、
小さな案件であれば、フリーの人同士のパートナーシップで組んで制作を進めたり、提案もできる。そういうフレキシブルな進め方をしていきたいと思っています。

●竹田:なるほど。

ホームページ制作 基本設計 

「飯が食える」かどうかはわかりませんが、
世に問うてみたかったんです。

●久保:今はどの業界でも「スペシャリスト」と「ゼネラリスト」の両方の要素が必要で、広い範囲も理解していながらも「ここは強い・・」という見せ方をしないと、「何でもできます」でも「これしかできません」でも、ギャップが出てくる。むしろ、「自分の仕切りで、この方がデザインします」というほうが、正直だし発展性もあると思うんですよ。この分野で「飯が食える」かどうかは正直わかりませんが、一度世に問うてみたかったんです。

●竹田:「職域を横に倒す」というのはそういう意味なんですね。

●久保:通常は「制作全般をします」ということが多いと思うんです。

でも、この「職域を横に倒す」という発想は、建築業界で「建築家」の方がしていることと同じなんですよね。実際の作業は工務店に依頼されているし、依頼主が知り合いの工務店を呼んできてもいい。大手ゼネコンから設計だけを依頼されることもある。ずっと住宅情報誌の取材をしてて「この方法が自分の分野でもできないかな?」と思っていたんですよ。

前回「実験」と言ったのは、こういう理由です。建築士の免許がないので「家」はつくりませんが(笑)。

●竹田:ところで、このサイトには、昨年、ご一緒に本を出版させて頂いた流れで、ぼくも「パートナー・スタッフ」として表記してくださっているのですが、これも横に倒された例ですね。
上下の関係というのではなく、横に並んでゆるやかにつながっているという気がします。

●久保:この仕事を進めていくには、さまざまな方のご協力が必要不可欠です。専属パートナー・スタッフ以外にも、さまざまなフリーの方や、制作会社さんにお願いしていきます。

大事なのはディレクションは自分がするということと、その時の制作物に合せてチームを組むということです。

出版社にいたころは、案件に合せて、適性のあるデザイナーやライターを組み合わせることをよくやっていたんですが、それを今度はフリーの方や会社の枠を超えてやっていけないかな・・と思っています。

●竹田:この「パートナー・スタッフ」は、今後増えていきそうな感じでしょうか?

●久保:クリエイターによっては、メインのお客様の絡みなどで名前が出せないケースもあります。このサイトでは、一緒に仕事をさせていただいた方で、なおかつ「名前を出した方がよい・・」と思われている方のみを記載する形になります。
でも、増えてほしいなぁとは思いますね。パートナーの皆さんと一緒に独自の媒体(たとえば、リトルプレス出版とか)も、いつかやってみたいとも思っていますし。

●竹田:作り手としても、それは楽しそうだなあと思いますよ。

ところで、この「しおまち書房の」サイトの中の「しおまち書房とは」という文章で、
「地方から発信するコンテンツの可能性を試したい・・・それが「しおまち書房」のかんがえです。」
と宣言しておられますが、この「コンテンツ」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

●久保:ここでいうコンテンツは、その人やグループなりの「表現」ですね。「表現したい気持ち」というか。昔はそれを「メッセージ」といいましたが、その言葉がつかわれすぎて大げさになってしまっているので、やっぱり「気持ち」とか「想い」ですね。
「書房」の風景

『ひろしまスケッチブック』も、
最初は「想い」を感じ取れなかった。

●竹田:「広島の良さを絵と文章で表現したい」というのが、ぼくのメインテーマなんですが・・・。

●久保:それが「コンテンツ」ですね。
それをどんな形の「作品」として世に出すか・・という意味です。

DTP化(印刷物をパソコンでつくること)が進んで、デザインのすそ野がずいぶん広がったと思います。デジカメやスマートフォンの発達で、写真や動画も誰もが日常的に撮るようになった。ホームページも形だけならJimdoやWord PresssなどのCMSで、すぐに作れてしまいます。

そうすると、制作物の「枠」とか「形」、あるいは「部品」は、将来的には誰でも作れる時代が来るんじゃないかと思うんですね。

でも、たとえばフェイスブックで、ダラダラとその人の撮った写真を並べてあっても、知人の家に呼ばれて子どもの運動会のヴィデオを延々と見るのと同じく、さすがにちょっと疲れてくる。

そうすると、部品や枠を編んで「作品」にする。視点をもって素材を選ぶ・・・。写真に一言でいいから「気持ち」をコトバにして添える・・・ことに価値が出る時代が来ると思うんです。その人の想いやメッセージの入った発表。それがコンテンツだと思うんです。

●竹田:コンテンツをつくる部分が重要ということですね?
フェイスブックなどで投稿されている写真を見ていると、これをそのまま写真集にすればいいのではないかと思うことがありますが、やはりそんな「素材」だけでは、不十分ですか?

●久保:意思を持って選んだか、ただ並んでいるか。これは大きく違うと思っています。「素材」だけでは、その方の表現したい気持ちが、じつは第三者にはまったく伝わっていないことも珍しくないですよね。

『ひろしまスケッチブック』も原案は「画集」で、文章がつく予定はありませんでした。絵を拝見した段階でぼくは「想いが伝わって来ないなぁ」と正直思って、ご本人にお聞きすると「想い」がたくさんある。文章だって書ける。そこで、「絵と文章をペアにする」ことを提案させていただきました。

発表形態がアナログでもデジタルでもいい時代。「そのどちらを選ぶか・・・」ということも大事ですが、「素材」を「コンテンツ」に変えることが肝心だと思います。たとえばアーティストの方でコトバが苦手という場合は、他のかたの文字と組み合わせて「作品」にするというコラボもいいかもしれません。

●竹田:たしかに・・・。ぼく一人では、枝葉末節の部分しか注意がいかず、『木』全体を見ることはできなかったと思います。完成形を想定して全体を俯瞰できる久保さんの目が必要だった。

ところで、次の質問に移りたいのですが、できて間もない「しおまち書房」ではありますが、現在動いている仕事、あるいは既に完了した実績というものはありますか?

●久保:いくつか進行中案件を進めていたり、ご相談もいただいていますが、公開の可否があって、今は言えるものがあまりないのです。最近では、印刷会社に在職中にご依頼いただいた案件ですが「森の買取ひろば」という買取サイトのディレクションをさせていただきました。

絵本・携帯・スマホの宅配買取「森の買取ひろば」

●竹田:「母と子の宅配買取 森の買取ひろば」というサイト・・・。
そこでは、久保さんはどのようなコンセプトでお仕事をされたのでしょうか??

●久保:通常、こういう本やゲームの買取りサイトというのは、どうしてもマニアックな雰囲気のものが多いんですね。古書業界だったりコンピュータ関連の業界だったり。

企画段階でさまざまなライバルのホームページをざっと検索して研究すると、好きな人には馴染みやすいけれど、どうしても素人にはとっつきにくい・・という要素が感じられたんです。

その一方で、この会社さんは「絵本の読み聞かせ会」を開催するなど、お子さんに向けた活動も以前にされていたことをお聞きしていましたので、それならお子さんのいらっしゃる家庭に向けたサイトデザインにしようと思いました。

デザインやイラストに関しては、デザイン事務所さんにご担当いただいたのですが、その結果、森の中に動物たちが買取り小屋を経営している・・という、ゲームや絵本のなかの場面のような雰囲気が出来上がりました。

「書房」の風景

つくり手の「想い」を訊いていきたい。

●竹田:今後、「しおまち書房」としては、どのようなことを進めていきたいですか?

●久保:前回のインタビューで、「ものづくりに関心がある」ということをお答えしたと思います。「ものづくり」においても、コンテンツの話と共通するんですが、「気持ち」とか「想い」があるから、モノが生まれているんだと思うんですね。

だからモノづくりをされている方に、その想いや人となりなどのお話をお聞きするメディアをつくれないかな・・・と思っています。
理想論からすると本を出せればいいのですが、まずはその前段階として、インターネットにサイトをつくることを考えています。題名は「つくる方へ」。「つくるほうへ」と読みます。

このタイトルは竹田さんがかつてブログで使われていたものですが、この計画にはぴったりと感じたもので、使わせていただくことにしました。「モノをつくるかたに向けたメッセージ」ともとれるし、「つくる方向へ向かっていく」とも読み取れるのが、いいですね。

●竹田:どうも光栄です。
周囲を見渡せば、いろいろな『想い』を表現しようとされている方がたくさん目につきます。
それらが取り上げられることは、とても意義のあることだと思いますよ。

●久保:「ものづくり」をされている方の多くが、大量生産で失われてしまったもの、それは自分で工夫したり、メンテナンスしたり、長く大事に使ったり・・。あるいは感性であったり味覚であったり・・・が今後さらに失われていくことに危惧を持たれています。その想いを訊いていきたいですね。

●竹田:町工場とか興味があるので楽しみです。
工員さんなんかは寡黙な方が多いけれど、そのうちに秘められた言葉をぜひ掬いあげて、形にして欲しいところです。

●久保:そうですね。ものづくりのすべての分野を聞いていきたいですね。工場や開発もそうでしょうし、アーティストもフォトグラファーも、プログラマーも、そして料理人も、農家でも・・・。自分の手でものを作っている方の想いを代弁できればと思っています。

●竹田:久保さんなら、忍耐強くお話を聴いてくださいますし、話を聞かれる人も心を開きやすいのではないかと思います。

●久保:そうありたいと思うのですが(笑)。

●竹田:今回も、じっさいに対面でのインタビューではなく、フェイスブックのチャットを利用しての長時間の対談となりました。
質疑応答のタイミングが非常に難しいことを実感しました。

しかし、これも、「しおまち書房」の『実験』精神の一つの現われとして、今後の特徴になっていくのではないかとも思いました。
久保さん、どうもありがとうございました。

「しおまち書房」のご発展をお祈り申し上げます。

●久保:インタビューの手法として、チャットが得意な方には、この方法もいいですね。
もちろん対面がやっぱり基本ですが、いろいろな可能性も試していきたいところです。

どうもありがとうございました。

  • 竹田さんは、今年の8月から『中国新聞』夕刊のコラムを担当されることになりました。このコラムも「絵と文章」がセットになったもので、『ひろしまスケッチブック』で提示した基本パターンを評価いただけたものと感じます。
  • 現在、公開可能な制作実績例はこちらをご覧ください。

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